役者6人+制作1人で7の椅子。劇団員による稽古場レポートと日々の戯れ事。
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「スプーン+魔法=」
20080705035103
 「曲げないで下さいね」
 男は冗談で女に声をかけた。
 女は目をよらせながら男の働く喫茶店のスプーンを両手で持ち、スプーンのクビにあたる部分を片方の親指の腹で真剣な眼差しでこすっていた。
 女:「あ、いけませんか?」
 あぁ、冗談のつもりがどうも本気だったようだ。
 男:「いえ…、いえ、曲げれるものならどうぞ」スプーンならいくらでもある。
 女:「それが…、やはり自分のスプーンでないと、気を使ってうまくいかないところでした」
 男:「それは良かった、ウチのスプーンは助かったんですね」
 女:「あははっ。そうですね、助かりましたねっ。ごめんなさい、つい」
 男:「いえいえ、拝見できずに残念。…普段からスプーンを手にするとやはり?」
 女:「そうですね、やはり」
 男:「しかし、曲がってしまっては使いものにならないでしょう。勿体無い」
 女、バックから曲がったスプーンを出す。彼女の初めて曲げたという、「く」の字のスプーン。
 女:「どうぞ、差し上げます」
 男:「いやいや…そんな大事なものいただけませんよ」  女:「また曲げればいいんで」
 男:「・・・」  曲がったスプーンを手放すことに躊躇のない女、使いものにならないスプーンを貰うことを躊躇する男。
 女:「これは貴方を開いてくれます。スプーンはこうでなくては、という観念を崩してくれます」
 男:「なるほど…なるほど。つまり枠に囚われるなという意味ですか。これはこうでないとおかしい。とか固定観念に縛られてばかりではなく、時にはこんなスプーンを見て、コイツはこんななのにスプーンなんだぞ。私は何を悩んでいるのだと…」
 女:「あははっ。面白い方ですね」
 男:「あれ、違いました?」
 女:「いえ、そういったことです。目の前にあるものや聞いたことが、全てでは必ずしも無いということです」
 客:「すいませーん」
 男は曖昧な礼を言いその場を離れた。カウンターにスプーンを置き注文を取りに歩く。
 女のいた席は、新しい客がメニューを開いている。
 男が別のウエイターに話しかける。
 男:「さっき女のお客さんが、この…あれ…スプーン…」 ウエイター:「スプーン?あーこれ、曲がってたよ。ほらこれで使える」
 男:「あ!…」
完全なる人力で直されただのスプーン。
 男は残念だったが何故だか少しホッとした。
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