役者6人+制作1人で7の椅子。劇団員による稽古場レポートと日々の戯れ事。
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「忘れ物と忘れないもの。」あとがき
30f1adec.jpg イナバさんとは半年ほどしか一緒に居なかった。
 イナバさんはパッチリと目を開けつつその先に何を見、何を考えているのかは最後までよく解らなかった。
 まぁ表情豊かなイグアナもイヤだが。
 そして猫の様に家に居着かない。
 半年の間に二度福田家から脱走した。
 多分だが自分の家がこの水槽であるとは認識していないし、この透明で先が見えるのになんだか壁のようなモノがあって先に進めない遮っているものをガラスだとも知らない。
だから自分の家を探しに行くのだろうか?
 しかし、もしかしたら全てを知った上で逃げようとしてるのかもしれない。
 それは本人が喋らない限り知る由もない。
 一度目の脱走は一瞬の出来事だった。
 真夏、僕の部屋にはクーラーがない。唯一の見方、扇風機がフル活動していた。しかし締め切った部屋でいくら扇風機で風を作っても熱風が回るだけである。
 イナバさんを見た。
 僕の部屋の窓はカーテンやブラインドで遮られているのではなく障子である。
 あの頃はブラインドに憧れたな。
 障子の格子にしがみつき障子紙に穴を開けている。
 暑いとかないみたい、平気そうだ。
 僕の部屋の窓には網戸がない。網戸さえあれば窓全開で涼しい風を入れるのだが。
 暑い…。
 分かっちゃいるけど窓を開けた。イナバさんすら通れない、ほんの2㎝程。大丈夫だろう。
 イナバさんを水槽から出すのは僕が一緒に居る時。
 しかし僕はトイレ行きたくなったりする。
 イナバさんはいい、その辺でピシャとやればいい。
 二分ほど部屋を空け戻る。
 奴がいない。
 マジかよ…。
 簡単に部屋を見渡す、窓に注目する。
 先ほどより気持ち開いている気がする。僕の部屋の窓の外は一階の屋根になっている。僕が布団を干す時は、布団を窓の外に出しそこに広がる一階のトタン屋根に広げ、干す。そのまま気持ちがよいので昼寝をしたりする。
 その屋根の先には庭が見下ろせる。小さな庭だが花壇、畑、そして秋になると赤く甘い食べられる実を生らす木が屋根より高く育っている。その木は家寄りに植わっていて広がる枝葉は屋根の上から触ることが出来る。
 窓の外、屋根を見る。その先の木がユラユラしている。夏の緑燃える葉の中に緑の奴がいた。
 のやろう…。
 奴は理解していたのだ。
 僕が窓を開けたこと、部屋から居なくなったこと、それ全てを無邪気に格子にしがみついて障子紙に手を突っ込んで見せて知らないフリをして《見ていた》のである。
 そして僕が居なくなった途端に開いた窓に向かい、狭い隙間から無理やりグリグリ出て、屋根に降り立ち走り、木に乗り移ったのである。
 所要2分。
 やるじゃねぇか、イナバ…。

 [ 気温34℃ ]

 「我慢してるのはお前だけじゃねえ。」

 [ 体温38℃ ]

 二枚重ねの軍手をしながら、階段を駆け下り玄関から外に出、倉庫から脚立をだし庭へ回る。
 一分経過。
 赤い実の生る木下に脚立を立て静かに登る。
 照準を定める。
 ゆっくり手を伸ばす。
 一分三十秒経過、余裕♪
 彼は細い枝に上手に乗っかり、足の平をグーにして枝をつかみ、風に吹かれジーっとしていた。
 葉が騒ぎ木が揺れる。
 手が止まる。
 真下から彼を見上げているから彼の目は見えない。
 目を閉じているのだろうか、目を開け何を見ているのだろうか。
 伸ばす手が止まった。
 彼がしがみつくべきは障子の格子でも水槽のガラスでもないのだ。
 こうして生きた木の上で風に吹かれいることになのだ。
 迷いが生まれる。
 その時、彼が首を傾げコッチをみた。真下の僕と目が合った。
 気づかれた。
 その目は相変わらず無表情である。
 しかし、こちらが勝手に考えただけだが、
 「気持ちがいい、このままではダメか」
 という目をしている気がした。
 僕は脚立の上で天に手を伸ばしたまま本当に一瞬迷った。

 !ダメですっ。君は日本じゃ居られない!!
 僕が木のようにじっとしていると顔を上げ下を見るのを止めたイナバさん。
 バカが…。
 グイッと腹からイナバさんを掴んだ。
 暴れる暴れる。
 お構いなしに家に入る。
 散歩はおしまい。
 玄関で母に会った。
 「何やってたの?急に外…えーー?!トカゲ?!」
 「んーイグアナ。」
 「捕ったの?!」
 「イヤ、逃げたから捕まえたの。」
 「飼ってたんだ…。」
 今知ったみたい。
 隠していた訳ではないが、知ったら「えーー?!」と驚くだろう思っていたがまんまだった。
 階段を上がる僕に「急にバッと出てきたりしないようにしてねー、びっくりしちゃう。」
 「うんー。」
 母よ、スマン。
もうないようにするよ。
 暴れ続け僕の手に沢山の傷を付け続け、部屋に帰されたイナバさん。
 また何もなかったような顔をしている。
 ゴメンな。

 その後、秋が深くなった頃、イナバさんは二度目の脱走を図り、成功した。
 鍵をし忘れた窓。
 すきま風でも分かるのだろう、その先が自由であることを。鼻先を突っ込みもがくうちに窓が開く。
 また少しの時間だった。
 探したが見つからなかった。
 もうすぐ冬。
 秋田の冬は半端じゃない。雪も積もる。
 外来種を逃がしてしまった。
 それはとてもいけないことだ。
 僕は自分の不注意で近所にサプライズ要素を仕掛け、そして無邪気で掴んでいなきゃいけない命から手を離した。
 どこか近くの暖かい骨董屋などで剥製かと思ってたらイグアナが動き始めた!などと噂がたてば良かった。
 僕は喜んで軍手を握り出動したに違いない。

 冬が明け春になる。
 狭い街である、そんな噂は無かった。
 ゴメンね、イナバさん。
 君を水槽から出してはいけなかったね。出ていなければ風を感じることも無かったしその先の世界も知らないで済んだのにね。
 多分君は水槽生まれで水槽育ち。
結局、人間のエゴだね。
 僕はなんだか困っている人からもらい受けたとは言え浅はかな考えで動物を飼い、良かれと思って色々余計なことを押し付けがましくし、釣った魚も食えなきゃ逃がせばいいのに大事に持ち帰り飼うし、出店のミドリ亀も飼うし…。
 まだ本当は沢山ある。
 また今度書こうかな。

 イナバさん、沢山の思い出ありがとう。
 僕とあの世で出会ったら、強烈な爪で引っかきにおいで。抱き上げた僕の胸を。
 ボーンと放り投げるかもしれないけど。
 木の上から君の見た景色を僕も見たいと思うよ。
 おやすみ、イナバさん。
 またね。

 追伸、
 写真はイメージです。
 イナバさんが自分を想像した。
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